僕達の目指すサイダーの味を見出そうと、世界中のサイダーを取寄せ、味比べをした。ベアレン醸造所のイングリッシュサイダーはその1つで、僕達が気に入ったサイダーに対抗できるものだった。僕達が目指すサイダーは、もっとアメリカ風ではあるが、ベアレンのサイダーは大好きだ。だから、サイダーが何か想像できない、と誰かに言われると、ベアレンのサイダーを挙げる。 今年のオガール祭りで、木村剛氏にお会いすることができた。ベアレン醸造所を成功に導いた牽引役の1人だ。僕達の事業のことを話すと、彼は今シーズン最初の仕込みの日に招いてくれた。醸造部の方達が工場を案内し、サイダーの作り方を見せてくれた。その後、木村さんがインタビューに応じてくれた。 先ほど、紫波のりんご箱をたくさん見た。どのぐらいのりんごを紫波から買っているのか。 1回目の仕込みでは10トンのりんごを使う予定で、今日届いた4トンは紫波の東長岡のもの。だから、40%か。 なぜサイダーを作り始めたのか? 麦芽やホップなどのビールの材料は輸入品を使っているが、地元のものを使って何かを作りたかった。イギリスを訪れた時、パブで飲んだサイダーが美味しかった。日本にはシードルはあるが、値段が高めで、ワインのように飲まれている。イギリスでは、サイダーはビールのように飲まれている。だから、地元のりんごでサイダーを作ろうと思った。 サイダーは総生産量のうちどのぐらいを占める? 3%ぐらい。ビール作りで忙しいが、サイダーは販売すると好評ですぐ売れてしまうので、もう少し余裕ができたら、生産量を増やしたい。 サイダー作りの質問をいくつか。僕達は工業技術センターで研修を受ける予定であるが、何かアドバイスは? 県で果実酒の技術指導を推進しているので、ぜひ利用すると良いと思う。後は、安くてきちっとした設備を選ぶこと。 最初は委託醸造にするなど、段階的に進めて行くのはどうだろう? 良いと思う。大事なのは、サイダーを売ること。正直なところ、サイダーは作れてしまう。売り先を見つける方が大変なこと。だから、最初は製造をどこかに委託し、販売に集中するは良いアイディアだ。最初の年は、みな興味を持ってくれるので、売るのは簡単かもしれない。でも、継続するのが大変。自分達は、経営的な軌道に乗るまでに3年ぐらいかかった。 最初のうちは、やり方を間違えて失敗作ができてしまうことが心配だ。 失敗することはあまり心配しなくてもいい。自分の目指す味があり、それに向けて努力して行くことが大切。そういう目標がない人が意外と多い。特に、特産品開発だと、地域の名産を使って加工品を作ることが目的になり、美味しいかどうかは二の次になってしまう。最初のうちは目指す味にならないかもしれないが、それに向けて努力して行くことが大事だ。 また、田舎の良いところは、人が優しいこと。こういう味を目指したが失敗してしまった、ということに理解を示してくれる。美味しくないサイダーでも、お酒になっていれば、気にしないで飲んでくれるだろう。(笑) 会社を始めた頃についての質問。出資を募ったり、補助金を使ったりはした? しなかった。銀行からの融資のみ。日本では15年前、広く出資を募る仕組みはなかった。補助金も使わなかった。必要な時には無いなど、タイミングの関係で使いづらい。でも、事業の立上げ時は融資の金利は高めになるので、融資の金利が低くなる補助金などは使った方がいいだろう。 サイダリーを始めるにあたり、二つの仕事をするつもりでいるが、可能だろうか? 自分は、醸造所の建設に2年かかったので、その間待たなければならなかった。前の仕事はすでに辞めていて収入が無かったので、夜は飲食店で働き、昼間は工場の建設に行った。最近は、仕事を複数持つのは普通になってきているし、複数あることでリスクが分散されて良いと思う。 今の社員数になるまでにどのぐらいかかった? 最初の3年間は5人でやっていた。それから少しずつ売上げが増え、生産量を増やさなければならなくなり、毎年2人ぐらいずつ増やしたと思う。一度にたくさん増やした訳ではない。忙しくなり、どうしてもこなせない、というので増やして行った。 初めのうちはつらかった? 大変だったが、そういう忙しい時期を経験する必要はあると思う。 僕は、ベアレン醸造所の人々の優しさに感銘を受けた。工場2階の見学ルームは、僕にコロラド州のマイクロブルワリーのレストランを思い起こさせた。そこで木村さんは僕達の質問全てに答えてくれたが、つまりは、僕達の事業は紫波にとって望ましいが、まずは販売に力を入れるべきだと言っているように感じた。彼は、僕達が僕達自身の辛い時期に踏み込んで行くにあたり、いつでも連絡していいとまで言ってくれた。 みなさんがサイダーに興味があるならば、ベアレン醸造所のイングリッシュサイダーをお勧めする。彼らはアップルラガーも作っている。僕達が目指すサイダーはその2つの中間のようなものだが、もしサイダーに味をしめたなら、僕がいつかは、と夢見る「岩手サイダーブーム」に乗って、素晴らしい地元企業を応援してほしい。
