紫波サイダー物語 1

I

サイダーを作りたい。

 サイダーと言っても、甘い子供用の炭酸飲料ではない。英国や北米でサイダーと呼ばれるものだ。それは昔ながらの言葉で、昔ながらのアルコール飲料を意味する。

 この時点でまだこのコラムを読んでいる皆さんは「シードルのこと?」と思ったかもしれない。そう、そのことだ。皆さんは「じゃあ、なんでシードルと言わないの?」と思っているだろう。反論しないで!僕はちょっとした伝統主義者で、それに、僕の言うサイダーとは全く違うものなのに、その言葉がどのように日本語の仲間入りをしたのか全く分からない。

 サイダーの人気が衰えて、そのうち店から消え、徐々にサイダーという言葉はりんごジュースを連想させるようになったのではないか、と僕は考える。それがアメリカで起こったことだ。だから、アメリカのサイダー醸造者は時に「ハードサイダー」と呼び、子供向けではないことを明確にする。シードルは、日本においてハードサイダーと同義なのだろう。しかし、アメリカでのサイダーの大々的な復活によって事情は変わりつつある。僕は伝統を重んじる一方で変化も好むので、紫波でもシードルではなく、この言葉にこだわりたい。だから、僕が「サイダー」と言ったら、「りんごで作ったビールcider」を想像してほしい。お願いです。

 そして僕がサイダーを作りたい、と言ったら、それは自分のために作りたいという意味ではない。たくさんのサイダーを作りたい。紫波や岩手や日本の人々が楽しめるサイダーを。僕は紫波でサイダー醸造所、つまりサイダリーの事業を始めたいのだ。

    さて、それには明らかな障害がある。ここで5つを列挙しよう:

  1. サイダーを作った経験が無く、作り方も分からない。実は、これはちょっとした誇張で、作り方は知っている。何冊か本は読んだ。何冊かと言うのは、2冊。
  2. サイダリー事業の始め方が分からない。再び誇張ではあるが、そんなに大きな誇張ではない。
  3. サイダリー事業を始める資金がない。悲しいことに、これは全く誇張ではない。
  4.  酒造免許が必要である。
  5. りんご業界、特にりんごについての知識はほとんど無い。

僕は、これらの障害をどうやって克服したか、または克服できなかったかについてを、このコラムの題材にするつもりだ。真っ先に、りんごについて学んだ。

II

まず、実際に働いてみることにした。青い作業服を身に付け、オーストラリアにある紫波の姉妹都市からもらった帽子を被り、カッコいいサングラスを掛けて、古館にあるりんご畑に向かった。

 りんご農家の勝木さんに、勉強のために半日りんごの収穫を手伝わせてほしいとお願いした。彼は親切にも受け入れてくれたので、雲一つない爽やかな朝に彼のりんご畑へ行った。

 畑の中に伸びる狭い道に降り立ち、僕は感動した。地面が柔らかなクローバーのカーペットのようだったから。周りでは鳥がさえずり、西を向くと、身が引き締まるように澄んだ空気の中にまず陣ヶ岡が見え、その向こうに薄青の東根山が見えた。町の中心部から数分の所なのに、自然に囲まれていることによるゆったりとした静けさを覚えた。

 彼は僕に収穫の仕方を教え、作業場所に連れて行ってくれた。作業を始めてしばらくすると休憩しようと呼んでくれた。逆さにしたプラスチックのりんご箱に座り、僕は彼にインタビューした。

 勝木さんは若く、単刀直入な人物だ。埼玉県出身で、紫波に来て5年になる。僕の質問に率直に答えてくれた。

どうしてりんご栽培を始めたのか?

たまたま岩手に来たから。もし沖縄に行っていたら、パイナップルを栽培していたかもしれない。

摘花作業は大変?

2か月ぐらい続くので、どちらかと言うと飽きる。毎日やり続けなければならない。ここにある全部の木をみる。そうしないと、大きな1個のりんごの代わりに5個の小さなりんごになってしまう。

毎日働いている?

雨の日は働かない。疲れた時も休む。

一番忙しいのは収穫の時期?

収穫と摘花の時期、67月が一番忙しい。近所の年配の人に手伝ってもらっている。

紫波のりんご農家はどんな人達?

高齢の人が多い。

りんご農家の高齢化が進み、畑を維持できなくなっていると聞いた。

この畑もそうだ。所有者が高齢になって止めることにしたが、木は切りたくなかったようだ。この地区で一番若いのは自分で、次に若い人は50代。後継者は皆サラリーマンらしいが、父親が働けなくなった時に跡を継ぐつもりなのかどうかは分からない。とにかく、この辺りに若い農家はあまりいない。でも、紫波に新規就農で来て、トマトやブドウ等をやっている若い人は何人かいる。

 鳥の鳴き声に囲まれ、木陰で金属製の踏み台に立ち、注意深くツルをつけたままりんごを収穫しようとしていると、朝にコンピューターの前で眠い目を擦っている仕事よりもずっと良いものに思え、果樹園を諦めたがらない農家に対する共感で胸がいっぱいになった。ひと朝限りのベテランりんご収穫者として、僕は宣言する。僕達が大切にすべき特別なものがここにある、と。

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