紫波サイダー物語 3

I

オガールプロジェクトには、謳われることのない英雄がいる。

 それは八重嶋さんという役場職員だ。オガール関連で彼の名前を聞くことはあまりないが、彼がいなければ、情報交流館は音楽や遊び心のあまりない、今とは異なる場所になっていただろう。

 さらに、役場が何か新しいものを一から作り上げる時に声をかける人物でもある。それが本当かどうか定かではないが、僕にはそのように思える。彼は交流館と図書館を設計するチームを率い、完成した後は、いわて国体の担当課を率いた。

 彼のこれまでの経験を踏まえ、僕達のサイダーを作る計画について彼に話したくて、インタビューを申し込んだ。

もし役場からサイダーを作るように言われたらどうするか?

誰かに相談するだろう。起業やりんご栽培の経験がないので、りんごに詳しい、花巻でりんご農家をやっている友人に頼ると思う。

 どうやってサイダーを売るかを考える。ジェフさん達はサイダーを売るよりも、紫波の人達を幸せにしたいという方に重きを置いているのかもしれないが、売れたらさらに良いよね。だから、どうやって自分のサイダーを目立たせるかを、味やパッケージ、ラベルのデザインの観点から考えるだろう。デザインにはこだわりたい。

 面白い名前を考えるのも大切だと思う。商標登録したら注目を集めるかもしれない。

 また、図書館のビジネス支援サービスを利用すると思う。主任司書の手塚さんは秋田にいた頃、デザイナーと企業を結び付けるといったビジネス支援の経験がある。図書館では、醸造や補助金などの情報探しを喜んで手伝ってくれると思う。そういった案件を常に探しているだろうし、案件があれば図書館の役にも立つ。

新しいことを始めた経験を基に、僕達に何かアドバイスはあるか?

自分は目指す姿を視覚化しないとイメージができない。交流館整備を担当していた時にいくつかイメージ図を作成し、説明資料に使った。それらは実際にできたものとそんなに異なってはいない。

 サイクルパークのイメージ図も作成した。図面を見ていても、どんなものになるのかが掴めなかったから。

 もし視覚化されたものがあれば、自分が何をやろうとしているかを他の人達に理解してもらうのに役立つかもしれない。

八重嶋さんと話したかったもう一つの理由は、僕達のこの、失敗するなり成功するなりの物語を、起業を目指す人々へのアドバイスにもなるようにしたいのだが、役場はそういった人達を支援したいという事実が知られていないのではないかと考えた。八重嶋さんはこの春、商工観光課に異動されたので、どういった支援ができるかを教えて欲しい。

サイダーの作り方については全く分からないが、販路開拓や、人々がりんごを買いに来るような場所での試験販売的なことを手配する、などで支援できるかと思う。

 盛岡にある「よろず支援拠点」という起業支援の団体に紹介したり、補助金や起業家向けの融資を探して紹介したりできる。また、観光交流協会などとも連携して、サイダーの宣伝の支援もできるかもしれない。

 紫波には農産物が豊富にあるが、これだという目玉になる土産物がない。だから、サイダーにはその可能性があるかもしれない。

II

岩手県も起業家を支援してくれる。

 八重嶋さんの話に出てきた「よろず支援拠点」は、岩手県の先端技術センターに入居している県の関連団体「いわて産業振興センター」内にある。これらの情報を全部覚えられなくても大丈夫。頭のどこかに入っていれば、いずれ必要な時に再浮上するから。僕が言いたいのは、同じ敷地内に岩手県工業技術センターがあるということだ。これも県の関連団体で、ここの存在意義は、熱心な夢想家に対しサイダーの作り方を学ぶ手伝いをすること。と、まあ、そんなところだ。reports

 以前書いた通り、僕達には本で得た知識のみで、サイダー作りの経験はないため、ここを訪ねることから始めようと思った。幸運なことに、工業技術センターが昨年やったことを教えるからおいでよ、と誘ってくれた。言い換えると、毎年開催されている成果発表会があり、施設内の見学まであった。そこで、晴れた6月の金曜日の午後に立ち寄ってみた。

 約40人が集まる中で行われた発表によれば、近年ワインの消費量は増えており、ワイナリーの数も増えているとのことだった。

 また、いつからでも参加できる醸造の研修制度があるとのこと。現在、10人ほどが学んでいて、皆シードル作りをしているが、誰もシードルの代わりにサイダーとは呼ばない。

 それは冗談で、彼らに会う機会は無かったが、この訪問の間、誰かが「シードル」と言う度に「サイダー」とボソボソ言った。

 ここで会った人々は親切で、有益な情報をくれたが、彼らの反応を一言で表すとすれば、それは「デジャヴ」だと思う。盛岡駅へ行こうと大通りを歩いている時に、同じような男が次から次と話しかけて来るようなものだったろう。

 いずれにせよ、僕達はやる気が湧いた。そんなに多くの人がサイダーを作ろうとしているのなら、流行しているのだ。紫波にはたくさんのりんごがあるので、僕達もその流れに乗れる可能性がある。もっと重要なのは、町やああいった団体の支援を受けて、実現できるチャンスがあるということだ。

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