紫波サイダー物語8

I

このプロジェクトを始めた時、僕達の起業の過程を見せて、人々の起業家精神を引き出したいと考えた。失敗したら、その失敗を提示すれば、人々はそこから学ぶことができると思っていた。しかし、正直に全てを明らかにすることで、読者の方々のやる気をそぎ、自分達も失敗を引き起こす立場に追い込まれるかもしれないと懸念する時点に僕達は到達した。だから、ここでは簡潔かつ曖昧に表現させてほしい。

 経験から学んだ人々のアドバイスを受けた後、僕達は税務署へ行き、自分達に必要な酒造免許の種類と免許取得の過程を尋ねた。税務署の人々は忙しいにもかかわらず、長い時間をかけ詳細にわたって説明してくれた。

 プロジェクトの最初の段階から様々な役所の人に話を聞いてきたが、彼らは僕達を励ましてくれた。しかし、税務署での経験はそれとは異なった。酒造免許に関心のある人は心しておいてほしい。

II

次は時間軸を遡り、数ヵ月前のインタビューを紹介したい。最近は、吾妻嶺酒造店の佐藤元さんとのインタビューほど前向きなものが少なく、この1年を前向きな気分で終えたいから。

 吾妻嶺酒造店は紫波にある4つの酒蔵の1つだが、個人的なつながりから、僕達にとってはいつも特別な存在である。何年も前のことだが、紫波新聞に掲載された「ブラハワード」という特集記事の一環で川村編集長に連れて行ってもらった。(酒のタンクには詩が書かれてあるのだ!)この夏、僕達は蔵元の元ちゃんと奥さんに紫波中央駅前のサンセットで出会い、サイダー事業について話した。彼は親切に多くのアドバイスをくれ、後日インタビューにも応じてくれた。

インタビューの時間をとっていただき感謝する。

どんな種類の酒造りも応援したい。長いこと酒造りをやっている家に生まれたこともあり、日本酒を飲むとホッとする。でも、日本酒しか飲まない訳ではない。他の視点から日本酒を見ることは自分にとって非常に大切だ。だから、サイダーには興味がある。消費者として飲んでみたい。

年にどのぐらいの日本酒を製造している?

50キロリットルで、あまり多くない。岩手でも大手は2万キロリットル作っている。

構造改革特区で認められる2キロリットルの製造量では採算が取れないと聞いた。

そう思う。例えば、2キロリットル作ったとして、350mlのビンに詰めれば約7,000本になり、1本を1,000円の蔵出し価格で売るとすれば、700万円が入る。そこから酒税や人件費など様々な経費を出さなければならない。概算してみるだけで、2キロリットルでは足りず、何千万円と売り上げるには倍以上の量を作らなければならないと分かる。  

 経営者としては製造量を増やすことを勧める。目新しいし、紫波に住んでいる外国の方が作ったとなれば、最初の7,000本なんてあっと言う間に売れると思う。テレビの取材だって来るかもしれない。そうすれば売り切れてしまう。買いたいと言う人を断らなければならないことは、売れずに在庫を抱えるよりもビジネスにとって辛い。一度断れば、二度と欲しいとは言われない。安定した製品供給が大事だ。

 また、特定の場所でのみサイダーを入手できるような限定流通を勧める。どこででも手に入るようにすれば、ありがたみが無くなってしまう。ベアレンは、国内でも地ビールで成功した5本の指に入る会社だが、最初は販路を限定したから、今でもブランド価値がある。

サイダーをビールに代わる日常的な飲み物として、できれば1本200〜300円で売りたい。

サイダーの酒税がどのぐらいか分からないが、350mlで50円ぐらいするかもしれない。そうすれば、1本200円で売ったとしても、50円は酒税に消えてしまう。サイダーの酒税は意外と高いかもしれない。税務署に相談した方がいい。

設備を揃える上でのアドバイスを。

中古の設備はたくさん出回っている。あそこにあるタンクはもう使っていない。無料であげてもいいが、恐らく最初はもっと小さいタンクで始めたいだろう。良い業者さんを紹介するので、予算がないから、中古の設備が欲しいと言えばいい。

 ステンレスタンクは耐圧のものが必要だろう。先日、ある業者さんが来て、小さな耐圧タンクを見せてくれたが、70万円だった。業者にはお金が無い、と言い張ること。そうすれば、長い目で見ましょう、と安くしてくれると思う。

 「ものづくり補助金」と言う補助金があり、地域の特産品開発を支援するもの。上限は1,000万円で、3分の2が国の補助だ。販売促進にも使える。例えば、東京にプロモーションをしに行くとすれば、旅費や宿泊費、会場費などの経費の3分の2が出る。経産省は日本人かどうかなどは気にしないと思う。紫波のため、ひいては日本のためになることだ。他にも多くの補助金があるので、利用したら良いと思う。

 ビンについては、国産の安いもので良いと思う。格好つけて輸入品を使うと後で後悔する。きた産業と言う国内最大手を紹介する。ワイン関係のものを得意としているし、瓶詰めの機械も扱っている。

販路についてのアドバイスを。

サンセットの大ちゃんは応援してくれるだろう。もちろん、白銀商店とビビットも。山田酒店は岩手で一番大きな酒屋さんなのでここも良いだろう。他にも良い酒屋さんがあるので紹介する。

 また、イベントに参加して宣伝するといいだろう。やっぱり東京は人口が一番多いので、東京方面でも売ったらいいと思う。日本人はキャラクター好きだから、何か考えてはどうか。うちでもやりたいと思っているが、造り酒屋には合わない、と周りが反対している。(笑)サイダリーにゆるキャラか何かがあれば、面白がってくれると思う。

 アメリカのサイダーということを強調すべき。ワインを見れば、日本のワインも良くはなってきているが、日本の消費者はまだ輸入ワインをありがたがる。だから、サイダーもアメリカのやり方で作ったものと宣伝すると良いと思う。日本に住む外国の方が作ったサイダーは、外国の方にも受けると思う。

 仕事で付き合いのある人達にサイダーを宣伝するし、皆さんにも吾妻嶺を宣伝して欲しい。相乗効果は大事だ。

前回から何年も経った後に訪れた蔵で、質問が頭に浮かぶ度に尋ね、丁寧に答えてもらうことができて嬉しかった。涼しく薄暗い部屋でタンクやポンプなどの醸造設備に囲まれながら座っていると、このサイダー事業を含め、僕達は前の訪問から随分変わったものだと思った。一番の変化と言えば、紫波の人々との関係が深まったことで、助けが必要な時に、声に出せばそれが得られる。

 もう1つのものすごく良い変化は、町に対する僕達の理解が深まったこと。今回は、吾妻嶺酒造店をより知ることができ、古い歴史がありながらも進歩的な未来像を描く紫波の企業だということを学んだ。

 だから、日本酒好きであれば、白銀酒店に行って吾妻嶺のお酒を買ってほしい。ひょっとしたら、僕達がそこからもらったタンクでサイダーを作っている日が来るかもしれない。

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