紫波サイダー物語11

第5話で、農林課から農産物の加工技術を学びたい人のための支援事業について聞いた。僕達は3月にこの事業を利用して、サイダーがブームになっている長野県に研修に行ってきた。この研修の前に、東京にある日本シードルマスター協会に助言を求めたところ、同協会が出した「シードルの事典」を買うように言われた。幸運なことに、紫波町図書館がビジネス支援の一環でこの事典を購入してくれた。(注:この記事で「サイダー」というのは、一般に「シードル」と呼ばれるりんごのお酒である。)

研修で訪れたのは以下の4カ所:

A. カモシカシードル醸造所 ー 長野県でも数少ないサイダー専門の醸造所。興味深いことに、東京で福祉施設を運営する会社が母体である。

B. 信州松本りんごバル ー JR松本駅近くにあるサイダー専門の飲食店で、りんご農家出身の店長は委託醸造の経験もある。

C. ヴィラデストワイナリー ー 著名なエッセイスト玉村豊男氏が立ち上げた。シャルドネは洞爺湖サミットや伊勢志摩サミットで提供された。サイダーはワインの仕込みが終わった後のタンクを使って仕込む。

D. アルカンヴィーニュ ー これも玉村氏が代表を務めるワイナリー。日本ワイン農業研究所としてワインアカデミーを開講しており、栽培、醸造、経営が学べる。 サイダー製造の約半分は委託醸造。アカデミー卒業生からの委託も多い。

僕達は、図書館が購入してくれた事典と紫波のお土産(吾妻嶺のお酒と虎屋の紫波餅)、そして沢山の質問と共に行ってきた。

長野研修旅行で学んだサイダー造りに関することトップ10

  1. サイダーを造る人達は素敵だ

    馬鹿げて聞こえるかもしれないが、彼らの僕達を迎える姿勢に感動した。誰もが多くの時間を割き、醸造施設を案内し、質問に答えてくれた。僕達が分かっていなければならないとさえ知らなかった情報も教えてくれた。

    遠く離れているにもかかわらず、彼らは知り合いで、お互いの製造方法なども詳しく知っていたことから、親密なコミュニティが形成されているのだと思った。更に、言うことも似ていた。とても似ているので、話題リストを共有しているのではとさえ思えた。

  1. サイダーは多様であり得る

 僕達が飲んだ長野のサイダーは、辛口でハーブのような後味があるという点で、どれも似ていた。岩手のワイナリーが造るサイダーとは異なり、ベアレン醸造所のイングリッシュサイダーとも全く違う。もちろん、ぶどうで造るワインの多様さを考えれば、これは驚くべきことではない。

  1. 日本のリンゴで大丈夫

 米国や欧州にはサイダー用のりんごがあり、酸味やタンニンが特徴だ。僕達は紫波のりんご農家にそういったりんごの栽培をお願いしようかと考えたが、長野で会った人達はみな「ふじ」を使っていて、サイダーも美味しかった。カモシカシードル醸造所は昨年、権威ある賞まで受賞していた。

  1. 農家のためにはならない

 僕達が紫波でサイダーを造りたい理由の1つは、サイダーに使うりんごは生食用りんごほど手間をかけずに済むので、高齢化が進むりんご農家の力になれるのではないかと考えたからだ。しかし、近隣の農家から生食用りんごを買うカモシカシードル醸造所は、見た目は気にしないからと言っても、農家はなかなか栽培方法を変えられないようだ、と言っていた。このことで、農家の役に立ちたいなどというのは、独りよがりの考えだったと気付いた。誰も僕達に高齢のりんご農家を助けてほしいと頼んだ訳ではない。だから、りんごに新しいマーケットを作り出すことぐらいが、僕達が紫波の農家のためにできることなのだと思い始めた。

  1. 料理とのペアリングを考えること

 サイダーを作りたいと言うと、最初に言われる助言の1つは、合わせる料理を探すこと、だ。問題は、りんごバルの店長が言った通り、サイダーは食前、食中、食後のいつでも楽しめること。だから、ほとんどの料理と合う。しかし、この答えは、客が満足するものではない。そこで、何かと合わせなければならない。りんごバルでは、りんごの効いたスパイシーなスープカレーや野沢菜を勧められた。試してみたら、とても良く合った。

  1. 小さなビンがカギ

 僕達はこれまでもワインではなくビールに近いものを造るつもりでいたが、今回会った人達はみなワインのようなサイダーを造っていた。そこでの問題は、客は720mlのワインボトルではなく、小さなビンを欲しがるということ。りんごバルの店長も、ハーフサイズのビンだと勧めやすい、と言っていた。しかし、製造者側はコストの問題から消極的だ。アルカンヴィーニュでは、酒屋からハーフサイズが欲しい、と言われるが、同じ量を売るのに手間が倍になってしまうから、と話していた。

  1. 価格設定は難しい

 製造者は在庫を抱えても、それまでにかかったコストを考えると値段は下げられないと言う。ここでの問題は、りんごバルの店長が言ったように、田舎で高い値段は付けられない、ということ。消費者は買わないだろうし、酒屋も高すぎると言って扱ってくれないだろう。

  1. 広めることが重要

 サイダーはまだ消費者や酒屋に広く知られていない。りんごバルの店長は、人気は出つつあるが、まだ製造側だけが盛り上がっている印象だ、と言っていた。僕はその意見に同意しなければならない。なぜなら、レンタカー会社で受付の女性に、サイダーを造っている人達に会いに行く、と言ったところ、サイダーが何かを知らなかったから。

 りんごバルでは、この課題を克服するために、飲食店への営業ではサイダーとはどんな飲み物なのかを明確に説明すること、と言われた。カモシカシードル醸造所では、イベントに参加して普及に努めること、と言われた。ヴィラデストワイナリーでは、サイダーはビールとスパークリングワインの間の位置付けで、気軽に飲める飲み物だと説明しており、乾杯にサイダーを勧めている。アルカンヴィーニュでは、例えば、特区を活用し、小さな古民家を改修して醸造所を始めるなどして、自分の商品が話題に上るようにしなければならない、と言われた。

  1. 口コミが大切

 りんごバルの店長にこう言われたのだが、彼が情熱を持って異なる種類のサイダーについて説明してくれるのを聞いていて、この言葉が僕達の身に染みた。もし僕達が造ったものを彼のような人や一般の人達が満喫してくれるのであれば、僕達は誇らしく思うだろう、と。

  1. 販売に注力すること

 僕達は山積みになっているサイダーの間を歩いた。多くの人達がコストや値段の高さを話した。そこで明確になったこと:サイダーを造るのは簡単だ。誰にでもできる。難しいのは、それを売ることだ。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

%d bloggers like this: